2018年8月法話 『山の猿と海のクラゲ』

2018年07月17日

画.阿 貴志子

山の猿と海のクラゲ

 

 山に住んでいる猿は海に憧れ、海に住んでいるクラゲは山に憧れた。

 猿は海に突き出た松の木に登り海を眺め、クラゲはその下の海の中から山を眺めては、(一度でいいから行きたいなあ)とおたがいに思っていた。猿とクラゲが仲よしになるのには時間はかからなかった。猿はクラゲに山の木の実のことを話し、クラゲは海の魚の泳ぐ様子を話し、知らない世界を知って驚き、好奇心を抱いたのだった。毎日顔を合わせることが日課となり、会えない時は悲しくなった。そんな仲よしであったが、あるとき、大変なことが起こった。

クラゲがお仕えしている竜王さまのお姫さまが病気になり、それを治すには猿の生肝しかないと医師は診断した。

竜王はクラゲに命じ

「お前が親しくしている猿をここにつれて来い」

 と言った。クラゲは困った。

 ここに猿をつれて来れば殺される。つれて来なければ私が危ない

 クラゲはさんざん悩んだ末、猿にこう話した。

「キミが憧れている竜宮城につれて行ってあげよう」

 クラゲは猿をだましたのだ。それを知らない猿は

「えっ、本当か、うれしいなあ」

 といって、松の枝をゆすってよろこんだ。

 さて、竜宮城につれて来た猿にクラゲは

「お姫さまの病気を治すためにキミの生肝がほしい。くれないか」

 猿はしばらく考えて

「あげたいけど今はない、早く言ってくれればいいのに、重たいから松の枝にぶらさげて来てしまった。戻って持ってきてあげるよ」

 クラゲは猿が逃げないように松の木の下までついて来た。猿は言った

「クラゲ君、キミは陸に上がれないだろう。ぼくが肝を持って来るまでこの海の中で待っていてよ」

 猿は、してやったりと思い、山奥に入り、それっきり戻っては来なかった。

 これは仏教説話『ジャータカ』にある物語だ。人と人とはどのようにつき合ったらよいのか、考えさせられるだはありませんか。



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