2021年12月法話『声明(せいめい)と声明(しょうみょう)』

2021年11月16日

画.阿 貴志子

声明(せいめい)と声明(しょうみょう)

 声明(せいめい)というと、最近はアフガニスタン過激派組織による「犯行声明」をよく耳にする。日本でも昭和三十年代に革命と称して自由社会を破壊しようとする過激な集団の声明文を読んだことがある。

 声明は、このように暴力的意思表明ばかりでなく、本来は、お互いの立場を尊重しながら自分の立場や考えをはっきり公表することであった。それにはお互い同士信頼関係を築いておかなければならない。特に国と国同士においては重要である。

 国家間で問題が生じた場合、首脳同士が会談し解決を図り、合意事項を示すための「共同声明」を行うことがある。この声明は単なる発表ではなく抱束力をもつ。

 声明(せいめい)とは、自己意思の表明であると同時に約束を順守する表明でもある。

 さて、この声明を声明(しょうみょう)と読んだら、たちどころに仏教音楽と化す。

 天平勝宝四年(七五三)、東大寺の大仏開眼供養が国家的行事として盛大に催された。この時の法会は、唄・散華・梵音・錫杖の四箇法要という声明が中心となる大法会であったという記録がある。

 平安時代になって、慈覚大師円仁上人が入唐の際、あらたな声明を請来し、比叡山に伝え、良忍上人に至って、京都大原に来迎院を築き、勝林院とともに中国声明の発祥の地とされる魚山に因んで「大原流魚山声明」の道場を開き声明の発展に努めた。

 大原三千院の付近に川があり、呂川、律川と名づけられたのも、声明の音階を基にしている。ちなみに、ことばが正しく発音できないことを「ロレツが回らない」と言うが、声明の呂曲、律曲から出たことばである。

 声明にはきめられた音階音程がある。つまり、呂曲、律曲、中曲の三つの曲種があってそのそれぞれに宮・商・角・微・羽の五音、あるいは(反微・反宮を加えた七音)がつく。また音の高低やリズムとして、一越調(いちこつちょう)、双調(そうじょう)などの十二律(十二の音律)がある。

 この声明の音楽理論が基礎になって、日本の伝統音楽が成り立ち普及した。それというのも、仏教儀式の法会に触れる機会があったからである。 (阿 純孝)

                    



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