2016年6月法話『虎の話』

2016年05月19日
画.湯谷孝明

画.湯谷孝明

虎の話

 お釈迦様のご説法の素晴らしさを百獣の王の獅子にたとえて「獅子吼」といいますが、これをもじって ‟大いに熱弁を振るう„という意味にも使います。

 

そのように人の仕草を動物などになぞらえて、たとえとして際立たせることがよくあります。

 鼠小僧次郎吉も、夜、人目を避けてコソコソと動き回るネズミに例えると、その姿が鮮やかになります。

 ならば、どの動物が多く登場するかと見てみますと、ダントツに「虎」です。威風堂々たる力強さに魅力があるからなのでしょう。

 武田信玄と上杉謙信の戦いは「龍虎の戦」と言われました。実力伯仲の英雄を讃えたのです。大相撲の白鳳対稀勢の里の相撲も後世「龍虎の相撲」と語り継がれることを期待しています。

 

 また、「前門の虎、後門の狼」というたとえもあります。前から虎が力強く堂々と迫って来る。すると、ずる賢い狼が背後からスキを狙っている。まさに絶体絶命の状態のたとえです。しかし思うに、虎は正攻法で攻めるのに、狼ときたら相手のスキを狙って後ろから近寄る卑怯者。こういう人っていますよね。

 さらに上手がいます。

 虎の威を逆手に取って利用する輩です。

 虎がキツネを喰おうとしたところ、キツネは、「俺様は天帝の使だから、喰うと天帝に背くことになりますぞ」と脅して、さらに、キツネはこういいます。

「その証拠を見せてやるから、俺の後ろについて来い」

 そう言って、虎を従えて歩きました。それを見た者たちは、一斉に逃げたということです。

 

「虎の威を借りる狐」という『戦国策』にある話です。虎をたぶらかすのですから、キツネもしたたかです。

「虎穴に入らざれば虎子を得ず」という諺もあります。危険を恐れず意を決してやらねば成功は得られないという意味です。虎は子煩脳と言われていますから、その大切にしている虎の子を取るのですから、大変な勇気がいります。「虎は千里行って千里帰る」といいますが、これも我が子可愛さのためです。虎は強いばかりではなく、愛情深い心もあるのです。

「虎の子」と言えば、手放すことのできない大切なもの、隠し持った金品のことですが、虎が自分の子をたいせつに思うことから作られたことばです。

「虎の巻」という虎にちなんだことばもあります。あの戦い上手な源義経が学んだ兵法書の中の奥義が書いてある巻が「虎の巻」。

 現在の俗語に直せば「アンチョコ」です。

 

このように人それぞれの生きる姿を動物に例えた諺は多々あります。威徳ある虎をはじめ、スキを狙う狼、ずる賢いキツネ、いやらしくつきまとうヘビ、かわいらしい小動物や虫たち。まさに人間の生きる姿そのものです。

 

さて、あなただったら、どの動物になりたいですか。



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